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偶然。

 偶然とはおそろしいもので、それは僕らの生活の中に出番を虎視眈々と狙っている。

 とあるビルの屋上に、ある少年が今にも飛び込まんと目をつぶっていた。少年には階下を見る勇気はなかったが、自殺に対する決意は重いものだった。ちょうど同じ頃、少年のいる屋上から三つ下の階では夫婦が大きな声で互いを罵倒していた。この夫婦の喧嘩は毎度のことで、隣人にとってはもはやいつもの事、と当たりまえのこととなっていた。頭に血が上った奥さんは銃を持ち出しては主人を脅し、主人の謝罪とともに喧嘩が終わるパターンがお決まりだった。銃は主人のものであり、観賞用として壁にかけられていた。銃には弾は込められておらず、夫婦もそれを承知していた。
 が、その日はちがった。
 喧嘩も佳境に入り、奥さんが主人を脅そうとしたそのとき、銃は暴発した。その弾は主人にはあたらずに、窓のガラスを割り、上から飛び降りた少年の腹に穴を開けた。少年の体は腹に弾を受けそのまま落ち続け、三日前から張られていてガラス掃除の安全ネットに引っかかった。少年は死亡した。その原因は屋上から飛び降りたことではなく、腹に受けた銃弾だった。
 なんたる偶然か。ネットが張ってあったことで、もし弾が腹に当たっていたなかったら、少年は助かっていたのだ。つまり、自殺事件が一転して殺人事件となった。
 が、実はこの事件はもっと複雑なものだった。
 飛び込んだ少年のポケットには遺書が入っていた。その中に
「すべてを終わらせるために僕がやりました」
という一文が記されていた。
 実は少年は喧嘩をする夫婦の子供であり、その喧嘩に耐え切れず銃に弾をこめたのだった。全てを終わらせ、自らも自決するつもりだったのだ。
 少年の仕業であることは同じビルに住む少年の友達の証言で明らかになった。銃を撃った母は逮捕された。
 少年の思惑通りに事は進まなかった。彼は全てを終わらすことはできたが、自分の死の共犯者になってしまったのだ。
 
 この話は本当にアメリカで1958年に起きた事件。不思議。
 

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