ストレス

 若い母親が自転車を支えながら、信号を待っている。太陽が一番高い時間帯。乱れた前髪と額に滲む汗に疲れが見える。自転車には前と後ろ、子供が2人乗っていていかにも重そうだ。前の子は2,3歳、後ろの子はもう一人で歩けそうだが、スピードを考えると重さを我慢して自転車で移動した方が早いのだろう。炎天下の中、重い自転車を支える彼女。目には、頼むから早く変わってくれよ、という願いが見て取れる。この時間帯に、しかも子供を乗せて安全を気にしながら移動するのは大変だろうなあ、と思いながらいつの間にか応援している僕。信号が変わり、いよいよ自転車を進めようしたその瞬間、前の子供の片足のクロックスが落ちた。うわ、なんてタイミング、と注視している僕。自転車に座った体勢ではもちろん届かないし、信号は待ってくれない。どうするのかなあ、なんて見ていたら、彼女は子供に一言二言をかけ、諦めた表情で自転車のスタンドを立て、安全を確認してから靴を拾い子供に履かせた。用意が整った頃には青信号は点滅していて、彼女(たち)はもう一回信号待ちをすることになった。子供はそ知らぬ顔でちがう方向を見ていて、彼女はもっと汗だくに見えた。
 遠くから見ていた僕は、これってすごく大きなストレスなんじゃないか、と想像した。子育てノイローゼって良く聞くけど、この場面なんかはまさにそうなんじゃないか、と思ったのだ。もし僕があの母親だったら子供に怒っただろうし、怒らなくても顔に態度に出ていたと思う。きっとこういう事は日常茶飯事だろうし、母親というのは本当に大変なんだろうな、と思った。
 幸いなことにこの母親は嫌な顔を一つ見せず、自転車に乗って走り出したときには子供となにやら喋れながら、ちょっとした笑みを浮かべて去っていった。全く知らない人だけど、きっといい母親なんだろうなと思った。
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