春樹的生活

 何が辛いって、朝、ベッドから体を剥がすときだよね。社会的責任がなくて、まだ子供だったら起きないでいい言い訳100は浮かびそうである。
 学生の頃、村上春樹的生活に憧れた時期があった。朝早く起きて、ジョギングか水泳をしてからシャワーを浴び、ハムエッグとクロワッサンの朝食をしてから着替えて仕事に向かう。夜はジャズを聴きながら好きなワインを飲み、思いにふけながら眠気に襲われるのを待つ。そもそも僕は泳げないしワインも飲めないんだけど、こんな生活を送れるのはごく限られた存在であることも分かっていた。分かっていたけどそのスマートさを格好良く感じたんだよね。よく考えれば凄くストイックな生活で、まねをするのは難しい。

「よくわかりませんね」
と僕は言った。
「朝起きて出社し、家に帰り寝てはまた起き、また出社することの意味がわからない」
「君は頭がいい」ともう一人の僕は言って膝の上で指を組んだ。そしてひとさし指で一定のリズムを刻んだ。
「ではストレートな表現をしよう。君は大人なんだ。比喩でも誇張でも引用でもサンプリングでもない、極めて純粋な意味での大人だ。そしてこれはすでに決定された事項だ。」
そういうともう一人の僕は四角いものをベッドの横に置いた。
鳴り出す一分前の目覚まし時計だった。
「あなたは試合後の朝に訪れる疲労を体験したことがあるかい?」僕は試しに聞いてみた。
もう一人の僕はそれには答えず、表情の無い顔で僕の額のあたりをまっすぐに見ていた。
やれやれ。どうやら彼は本気なのだ。
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