その日の天使

 僕の好きな作家、中島らもの言葉で
「一人の人間の一日には必ず一人、「その日の天使」がついている」
というのがある。それが本当かどうかは別として、僕はその考え方が気に入っている。もちろんその天使は僕らが思い描く、
「背中に羽が生えていて頭の上に輪っかが乗っかっている」
アレではなく、さまざまな姿で現れたりする。それは久しぶりに会う人だったり、誰かの笑顔だったり、心の軽くなるニュースだったり、予想もしない人からの連絡だったり、帰り道に目にする光景だったり、ふと思いだす遠い昔の思い出だったり、新聞に書いてあったなんでもない一文だったりする。それらのおかげで僕らは色んなことを乗り越えたり、克服したりするのだが、不思議なことに天使に助けてもらっているその瞬間には、その天使に気づかないものである。
 誰にでも落ち込んだり、嫌な事があったりして、もう何もかもがもういいや、と思う事って無数にあると思うけど、良く考えるとそういう事って今までにも無数にあったはずである。きっとその度にその日の天使の力を借りてきたわけで、特別でありながらも限りなく日常的なことだったりして。古い本を引っ張り出して、久しぶりに読みながら本当のことだったらいいなと思った。
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