思春期と分け目

 前に書いたプロアクティブの呪いか、額にニキビが出来た。それも髪の毛の分け目のすぐ下で、非常に目立つ位置である。別に気にしなくてもいいのに、
「分け目を反対方向にすれば隠れるんじゃないか?」
と思いついたので早速朝から実践してみる。
 それにしても分け目のあの「慣れ」ってなんだろね。その形に慣れているのか、反対方法にしても中々定まらない。途中から意地になってやっと何とか形を作り出勤。しかしその形が中々続かずしょっちゅう頭を触りながら過ごした一日であった。僕は頭にかける時間は1日で3分ぐらいだけど、今日は1ヶ月分さわっていたんじゃないか。分け目を変えるのは簡単じゃないんだね。

 中学2年といえば思春期に足を踏み入れる頃である。女子はもっと早いんだろうけど、男子は色気づく頃である。その時の友達で気合の入っているヤンキーがいた。彼は後にプロボクサーになるぐらいの、絵に描いたようなヤンキーであった。彼はなぜか僕のことを好きで、色々と一緒に遊びながら同じ時間を過ごした。そして誰でもそうであるように、彼にも普段は絶対に見せない内なる弱さや繊細さがあって、僕は彼のその人間っぽさが好きであった。中2といえば人生の中でもっとIQが低い時期だろうけど、自分という人格が形成されていく時間でもあるんだよね。ほとんど猿みたいな思考回路だけど、それでも色んな出来事や人を通して学校では教えてくれないことを学ぶ時期でもある。
 ある日から彼から電話がかかってきた。携帯なんてない時代だから、もちろん家の電話である。なんだなんだと思いながら受話器を取ると彼からの電話で、
「明日床屋に行くんだけど、髪の毛を中分けにして欲しいんだけど、なんて言えばいい?」
と恥ずかしそうに、しかし真面目にきいてきたのだ。普段はツッパっているヤンキーが恥ずかしそうに言うものだから、僕は笑いそうになるのを我慢しながら、
「普通に言えばいいじゃん」
と答えただけだった。翌日学校に現れた彼はバッチリ中分けにしていたが、
「お前ら髪型について一言でも言ったら殴るぞ」
という雰囲気をムンムンと醸しだしていた。僕は彼のことがもっと好きになった。
 僕が今日やったように、きっと彼もその日、なれない手つきで髪をいじっていた事だろう。その時の様子のことを想像していると今でも笑いそうになる。そしてアイツを通して色々と学んだなあ、と思う。分け目ひとつ変えただけで思い出した話である。
日々 | comments (0) | trackbacks (0)
calendar
<< November 2009 >>
SunMonTueWedThuFriSat
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     
selected entries
categories
archives
recent comments
profile
others