< 2006年11月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >

線香

 時計がなかった江戸時代では、芸者たちのお花代(時給)を燃え尽きた線香の本数で計っていた。客が店に入る時に線香をつけ、接待してもらった時間を線香で計っていたわけだ。
 ある若い男に両思いの芸者がいた。男は名家の出で、芸者は三味線の上手い女であった。二人の愛は本物だったが、店ので外で合う事はもちろん出来ず、男が彼女の元に通い線香を立て続けていた。
 男があまりに芸者にのめり込むので、家族は改心させようとして男を蔵に100日閉じこめる事にする。顔を出さなくなった男に芸者は毎日手紙を書くが、全て男の家族に隠される。ある日を境に手紙は来なくなり、家族は
「水商売の女なんてそんなもんか」
と安心する。
 100日が立って、男は解放され、すっかり改心した様子。安心した家族は手紙を手渡す。その一枚には
「今日来てくれなければこの世の別れになるかも知れない」
と書いてあった。驚いた男は芸者置屋に急いで向かう。女将に事情を説明すると、仏壇がある部屋に案内される。
「彼女はあなたが来ない事によって病気となり、あなたからもらった三味線を持って死んでしまいました。」
男は詫びながら、悔やみながら線香をあげる。女将に入れてもらった酒を飲んでいると、位牌の横に備えてあった三味線から芸者の得意としていた曲の音が流れる。涙を溜ながら聞き入る男・・・。すると三味線の音がピタッと止まる。
「どうした、もっと三味線の音を聴かせてくれ」
と男は涙ながらに懇願する。
そして女将が
「彼女はもう三味線を弾けません」
「何故だ?」
「たった今線香が燃え尽きました」

posted by @6 : 14:10

Trackbacks

Comments

Comment Form

yesno
< 教育ってなんだ?いじめってなんだ? | top |