この時期になると思い出す。

 この時期になると毎年思い出す出来事がある。学生時代の思い出で、特にこれと言った派手な出来事でもないけど、不思議と頭に残っているんだよね。

 学生時代のバイト先の先輩の引越しを手伝ったことがあった。この先輩は関西の有名な大学に通っていたエリートで、育ちの良さみたいなものも見えるものの、面倒見のいい先輩で僕にも親切に接してくれた。この先輩は早々に有名な所に就職を決め、後は卒業を待つだけの身分であった。もう12月だし、あとはテキトーに遊んで4月から社会人だぜ、なんて言っていた矢先、いきなり大学や辞めたのだ。おまけに親に相談しないででの行動だったようで、揉めに揉めた末、勘当されたのである。
 親も怒ったろうが、周りの僕らも先輩を多いにしかり、さすがに先輩もことの重大さを感じたのかフラフラすることもなく、すぐにバイト先のオーナーに頼み込み社員として採用してもらった。家を早くでたいという思いもあったに違いない。というわけで店長とその先輩ともう一人の先輩と僕の4人で引越しをする事になったのである。

 僕は普段から車を使って配達のバイトも掛け持ちでやっていて、運転に慣れているだろうということで、トラックを借りてくる役目が振られた。20歳そこそこのガキがレンタカーでトラックを借りるのは不思議だったようで、色々ときかれたのを覚えている。
 先輩が両親と住んでいた高級なマンションから荷物を降ろし、トラックに載せた。とにかく寒い。12月の真夜中だから当たり前なんだけど。光も少なく、あちこちに家具をぶつけながら、しかしなるべく音を殺しながら家具を運んだ。男の一人暮らしの荷物はたかが知れていて、作業は1時間ぐらいで終わった。恐れていた親との対面をなんとか回避し、先輩の新居となるアパートに荷物を運ぶことになった。
 先輩の新居は歓楽街に近い、細い道に面したワンルームであった。築30年は経っているであろう、漫画に出てくるようなボロアパートであった。周りの住民は明らかに歓楽街の住人達で、すこし怖かった。いい加減疲れていた僕らは黙々と作業を続けた。音を出さないように頑張ったのだが、金属の階段を上がる時の音はどうにも出来ず、隣のフィリピン人っぽい女性を起こしてしまったようだった。ドアを開け顔を出したので怒られるかな、なんて一瞬思っただけど、彼女は何も言わずまたドアを閉めた。
 荷物を運び終わると、礼を込めて先輩が焼肉を焼いてくれることになった。朝の4時すぎに焼肉はどうなんだ?とみんな思ったけど、その時僕らはハイな精神状態になっていて何でも来い!という状態だった。焼肉が焼きあがるのを待ちながら、僕は安いペンキで塗られた新居の壁を見ていた。黙々と煙があがり、小さな換気扇はその煙を排出できずに、部屋は煙だらけになっていった。ハイな状態が覚めていくのを感じながら、先輩はこの先どうするんだろう、と思った。僕らは黙々と食べながらバカ話をしたが、先輩の行動について触れる事はなかった。

 別に・・って話だけど、夜中寒いときに当時の事を思ったりする。僕らは全員、
「なんて勿体無いことしているんだコイツは」
と思っていたけど、先輩の笑顔を見ていると
「まあいいか」
と思ったものである。今思えば大学を辞めことも、すぐに就職を決めたことも軽率な行動なんだけど、誰にも先輩を裁く権利はない。人の価値観は様ざまで、その行き先も同じように無限にあるって事を知った夜であった。
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