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痛い話

 僕が野球をやっていた時のこと。僕らのチームのキャッチャーが試合中に泣き出す事件が起こった。
 そいつは一目見れば「君キャッチャーでしょ?」と言われるような、体形がもうキャッチャーになるために生まれてきた奴であった。キャッチングとスローイングがうまい奴で、当然のレギュラーであった。少年野球におけるキャッチャーはとても重要なポジションで、そいつは打はそこそこながらも守備では群を抜いていた。
 それは選考会の練習試合の途中で起こった。そいつがポロポロとボールを落とすのだ。らしくないなあ、と思いながらも試合が進むんだけど、キャッチングがどんどん不安定になり、動きも悪かった。そして試合も終盤の頃、ボールを受け止めたそいつはその場にうずくまった。心配になった僕らは駆け寄った。そいつは膝をついたまま動かずにミットを抱いていた。誰が声をかけても動かない。大人たちがかけより、声をかけるが返答はない。誰かがマスクをとってやったら、そいつが泣いているのがわかった。涙の道に埃がくっついて、両目から頬を伝い、下に向かって黒い線が出来上がっていた。そいつは監督たちにベンチに連れて行かれ、しばらくしたらミットをはめる左手の指を2本骨折していたことがわかった。守備練習の時に指が折れたのだが、そいつは自分の責任を感じて誰にも言えずに、痛みにこらえながらずっとピッチャーのボールを受けていたのだ。
 問題はこれからで、指が腫れていたのでミットから出すことが出来なかったのだ。引っ張っても取れないし、そいつは痛がるしで一時騒然となった。結局はグローブを部分的に切ることでやっと手からはずしたのだが、そいつの指はちょっとしたフランクフルトになっていた。
 たしかに大事な選考会だったけど、なんでアイツはそこまで我慢できたのかが不思議であった。痛い手にグローブをはめて、ずっと球を受けていたのだ。1球ごとに頭を突き抜ける激痛が走ったに違いない。子供はたしかに良く泣くけど、あの時のアイツは誰がどうみても格好よかったー。指を見たときは引いたけど。

posted by @6 : 20:16

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