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夏の思い出

 多分5メートル前に見えるあの光の揺らめきは陽炎たったのだと思う。噴出した汗はその瞬間に蒸発、太陽の光は手で掴めると思った、8月の沖縄、15年前のこと。
 空の青さはどんな絵の具を使っても再現できないもので、その真ん中を白というより黄色い雲が縦に走っている。雲の先には形のない、全ての色を消し去る眩しさを投げかけてくる太陽。落ちはじめてはいるものの、その力を見せ付けるかのような色のない炎を投げかけてくる。前を痩せた黒い犬が通り過ぎる。見た限り飼い主はいないが、野良ではないことはすぐにわかる歩き方。一瞬僕を見るが、何事もなかったかのように通り過ぎる。
 僕は文字通り右も左も分からない異国に落とされた、という感じで立っている。正直どこが前でどかが後ろなのかも分かっていないけど、とりあえず当時寝泊まりしていた部屋までの帰り道だけは覚えいた。経験したことのない暑さにその自信も溶け始めてはいるが、その前に僕の身体の方が先に溶けるだろうと感じていた。
 少し行った先に交通量の多い通りがあった。見たこともない場所に見たい事のない看板が、見た事のない文字を掲げている。これまた見た事のない車が走っていて、僕だけが浮いている様に感じれた。事実その場所の日常は昨日まで僕なしで成り立っていたわけで、大通りの喧噪すらも僕が存在する次元とちがう場所でその時を刻んでいるようであった。日常というのは実は存在せず、全ては時間の積み重ねである事を悟った僕であった。
 その通りのガードレールに白人の男性が座っていた。片足を地につけ、もう片足をガードレールの側面につけていた。厚い胸板、肩から提げたバックパック、そして不安を隠した態度が彼が金網の中、基地の人だという事を物語っていた。男性はタバコを器用に扱いながら、何かを考えている様であった。金髪の紙に太陽の光が当たり、乱反射していた。

 見るからに男もオキナワに着いたばかりであった。根拠を説明する事は出来ないが、オキナワの臭いが彼に染みついていないというか、オキナワの風景が彼に溶け込んでいないというか、そこにいるけどそこにいないような、僕と同じように日常間が圧倒的に欠如しているのだ。


続きはまたそのウチ。

posted by @6 : 18:00

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